1970年代前半に誕生したヒップホップ文化(DJ、ブレイクダンス、グラフィティ、ラップ)。その中でヒップホップ音楽(主にDJ、ラップ)は、1980年代後半~1990年代前半(1988年~1994年)にかけて黄金時代を迎えました。
今回は、黄金時代のど真ん中、1990年のヒップホップの私的名盤を紹介します。
それでは第10位から…
10位:Intelligent Hoodlum / Intelligent Hoodlum
ニューヨーク・クイーンズ出身、インテリジェント・フッドラム(別名トラジェディ・カダフィ)の1stアルバム。
伝説的プロデューサー兼DJのマーリー・マールが全曲プロデュース(ラージ・プロフェッサーも2曲に関与)。マーリー・マール制作のドープで乾いたトラックとインテリジェント・フッドラムの柔軟性に富んだラップが光る名盤。
おすすめの曲は、「②Back To Reality」「⑨Keep Striving」「⑪Arrest The President」。
評価:★☆(良作+)
9位:AmeriKKKa’s Most Wanted / Ice Cube
ドクター・ドレーやイージー・Eが所属した最強ギャングスタ・ラップ・グループ、NWAを脱退後に発表したアイス・キューブの1stアルバム(全米19位)。
パブリック・エナミーのチャック・Dが所属するヒップホップ・プロダクション集団、ボム・スクワッドがプロデュース。そのため、NWAのような西海岸ヒップホップ風ではなく、パブリック・エナミー風の音作り。米ソース誌でマイク5本を獲得したヒップホップ・クラシック。
おすすめの曲は、「②The Nigga Ya Love To Hate」「③AmeriKKKa’s Most Wanted」「⑧Endangered Species (Tales From The Darkside)」「⑮It’s A Man’s World」。
評価:★☆(良作+)
8位:People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm / A Tribe Called Quest
ニュー・スクール・ヒップホップを牽引したネイティブ・タン所属、ア・トライブ・コールド・クエストの1stアルバム。1989年発表のデ・ラ・ソウル「3 Feet High And Rising」と並び、ニュー・スクール・ヒップホップの幕開けの傑作(全米91位)。
落ち着いたジャズやレア・グルーブをサンプリングしたトラックは、それまでのミドル・スクール・ヒップホップとは一線を画す音作り。天才Q・ティップの才能が凝縮された名盤。
おすすめの曲は、「②Luck Of Lucien」「④Footprints」「⑦Bonita Applebum」。アルバム・ジャケットもこれまでのヒップホップとは一線を画すセンスの良さ。
評価:★★(傑作)
7位:Mama Said Knock You Out / LL Cool J
ニューヨーク・クイーンズ育ちのヒップホップ・レジェンド、LLクールJの4thアルバム。
マーリー・マールが全面的にプロデュースした復活作(全米16位)。全体的には、東海岸ヒップホップ特有のシンプルなハード・トラックが中心ながら、LLクールJがお得意のメロウ・トラックも楽しめる名盤。
おすすめの曲は、「②Around The Way Girl」「⑧Mama Said Knock You Out」「⑫6 Minutes Of Pleasure」。「⑧Mama Said Knock You Out」はグラミー賞のベスト・ラップ・パフォーマンス受賞。
評価:★★(傑作)
6位:Business As Usual / EPMD
エリック・サーモンとパリッシュ・スミスからなるヒップホップ・デュオ、EPMDの3rdアルバム。
ヒップホップ・クラシック認定の1stアルバム「Strictly Business」と2ndアルバム「Unfinished Business」にも劣らない名盤(全米36位)。黒くファンクキーなトラックは相変わらず。後にデフ・スクワッドの看板ラッパーとして活躍するレッドマンをフューチャー。
おすすめの曲は、「③Rampage」「⑥For My People」「⑨Give The People」。
評価:★★(傑作)
5位:One For All / Brand Nubian
グランド・プーバ、サダト・X、ロード・ジャマー、DJアラモからなるヒップホップ・グループ、ブランド・ヌビアンの1stアルバム。
ニュー・スクール・ヒップホップの名盤(全米130位)。シンプルでカラフルでファンキーなトラックに3MCの掛け合いがマッチ。米ソース誌でマイク5本を獲得したヒップホップ・クラシック。リーダー格だったグランド・プーバ在籍時の唯一の作品。
おすすめの曲は、「①All For One」「⑧Wake Up」「⑩Slow Down」。ニュー・スクール・ヒップホップにしては、アルバム・ジャケットのセンスがイマイチ。
評価:★★☆(傑作+)
4位:Wanted: Dead Or Alive / Kool G Rap & DJ Polo
クール・G・ラップとDJ・ポロからなる伝説的ヒップホップ・デュオ、クール・G・ラップ&DJポロの2ndアルバム。
マーリー・マール、エリック・B、若き日のラージ・プロフェッサーがプロデュースに関与。あのナズも憧れたクール・G・ラップのハードで鋭いラップが聴ける名盤。後にラージ・プロフェッサーは、DJプレミアやピート・ロックと共にヒップホップの3大プロデューサーとまで呼ばれるまでに…。
おすすめの曲は「④Bad To The Bone」、「⑤Talk Like Sex」、「⑧Kool Is Back」。特に⑤はヒップホップ史に残る名曲。
評価:★★★(大傑作)
3位:Funky Technician / Lord Finesse & DJ Mike Smooth
DITC(Diggin’ In The Crates)所属、ロード・フィネスの1stアルバム(ロード・フィネス&DJマイク・スムース名義)。伝説的ヒップホップ・レーベル、ワイルド・ピッチからリリース。
DJ・プレミアとDITC所属のダイアモンド・D、ショウビズがプロデュース。DITC関連の初期作品でロード・フィネスのおとなしめの普遍的なラップ・スタイルがトラックの良さを際立たせる名盤。
おすすめの曲は、「③Funky Technician」「④Back To Back Rhyming」「⑥Slave To My Soundwave」。
評価:★★★(大傑作)
2位:Let The Rhythm Hit ‘Em / Eric B. & Rakim
ゴールデン・エイジ・ヒップホップを代表するヒップホップ・デュオ、エリック・B&ラキムの3rdアルバム(全米32位)。
ヒップホップ3大プロデューサーの1人、ラージ・プロフェッサーとその師匠ポール・Cがプロデュースに関与した傑作。エリック・B&ラキムが発表した4作品の中では最も地味な作品ながら、米ソース誌ではマイク5本を獲得したヒップホップ・クラシック。
ヒップホップ史上最高のラッパーとも呼び声高いラキムの低く乾いたラップとホーンを使用した玄人好みのトラックは聞けば聴くほど味が出るスルメ・アルバム。
おすすめの曲は、「①Let the Rhythm Hit ‘Em」「②No Omega」「⑥Run For Cover」「⑨Keep ‘Em Eager To Listen」「⑩Set ‘Em Straight」。
評価:★★★(大傑作)
1位:FearOf A Black Planet / Public Enemy
チャック・D(MC)、フレイヴァー・フレイヴ(MC)、プロフェッサー・グリフ(MC)、ターミネーター・エックス(DJ)からなる社会派ヒップホップ集団、パブリック・エナミーの3rdアルバム(全米10位)。ヒップホップの名門レーベル、デフ・ジャムからリリース。
ヒップホップ・プロダクション集団、ボム・スクワッドの複雑なサンプリングから生まれるファンキーでノイジーなトラック。チャック・Dの低音で迫力満点のラップとフレイヴァー・フレイヴの高音でクセになるラップが堪能できる名盤。
おすすめの曲は、「③911 Is A Joke」「⑤Welcome To The Terrordome」「⑬Revolutionary Generation」「⑳Fight The Power」。特に「⑳Fight The Power」はスパイク・リー監督の映画「Do the Right Thing」に使用されて大ヒット。
評価:★★★(大傑作)
おまけ①:Tell The World My Name / K- Solo
ヒット・スクワッド所属、K-ソロの1stアルバム。
EPMDのパリッシュ・スミスが全面的にプロデュース(1曲だけEPMDのエリック・サーモンがプロデュース)。EPMD直系のファンキーでドープなトラックにK-ソロの畳み掛けるラップがマッチした名盤。
おすすめの曲は「④Speed Blocks」、「⑦Your Mom’s In My Business」、「⑨Renee-Renee」。
評価:★(良作)
おまけ②:Monie Love Down To Earth / Monie Love
ネイティブ・タン所属の英国ロンドン出身女性ラッパー、モニー・ラブの1stアルバム(全米109位)。
ニュー・スクール・ヒップホップ風のジャジーでファンキーなトラックに加えて、UKダンス・ミュージック風のトラック。そこにモニー・ラブのスピード感のあるラップがマッチした楽しさ満載の名盤。
おすすめの曲は、「①Monie In The Middle」「②It’s A Shame (My Sister)」「④Ring My Bell」「⑧Down 2 Earth」。「②It’s A Shame (My Sister)」(全米26位)は、グラミー賞のベスト・ラップ・パフォーマンス賞ノミネート。
評価:★(良作)
まとめ
2位:Let The Rhythm Hit ‘Em / Eric B. & Rakim
3位:Funky Technician / Lord Finesse & DJ Mike Smooth
4位:Wanted: Dead Or Alive / Kool G Rap & DJ Polo
5位:One For All / Brand Nubian
6位:Business As Usual / EPMD
7位:Mama Said Knock You Out / LL Cool J
8位:People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm / A Tribe Called Quest
9位:AmeriKKKa’s Most Wanted / Ice Cube
10位:Tell The World My Name / K- Solo
1990年は、ゴールデンエイジ・ヒップホップ(1980年代半ば~1993年頃)の真っ只中。NWA、LL・クール・J、エリック・B&ラキム、クール・G・ラップ&DJポロ等のミドル・スクール・ヒップホップ。ジャングル・ブラザーズ、ア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウル等のニュー・スクール・ヒップホップ。他のヒップホップ・アーティストとは異次元のパブリック・エナミー。
今回の私的ランキングには、そのような時代にふさわしいヒップホップの大名盤がランク・イン。